高校数学の話
2次方程式の解の公式の導き方
2次方程式の解の公式は「完全平方を作る」やり方で導くのが普通だと思います。 ここでは少し違うやり方で導きます。
「x+y=a, xy=b のとき x^3+y^3 を a,b で表せ」
これは典型的な高校数学の問題です。今ここでこの問題を解くことはしません。
2次方程式の解の公式を上記の問題の解決方法と同じ考えに従って導きます。
2次方程式 x^2+bx+c=0 を考え、これの解を α,β とします。 解と係数の関係から α+β=-b, αβ=c です。 もしここで α-β が b,c で表せたら、それと α+β=-b から α,β は b,c で表せることになります。
しかし冒頭の問題と同じやり方を単純に適用するだけで α-β を b,c で表そうとしてもうまくいきません。 なぜならば αとβ を入れ換えた場合、α-β は符号が変わるのに対して、b,c の方はその値が変わらないからです。
ここでもうお気づきの方もおられるでしょう。そうです (α-β)^2 であれば、これは αとβ を入れ換えても値が変わりません。
「α+β=-b, αβ=c のとき (α-β)^2 を b,c で表せ」
これは冒頭の問題と同種の問題です。やってみましょう。
(α-β)^2=α^2-2αβ+^2=α^2+2αβ+^2-4αβ=(α+β)^2-4αβ=b^2-4c
今の結果から α-β=√(b^2-4c) または -√(b^2-4c) が得られます。
従って α={(α+β)+(α-β)}/2={-b+√(b^2-4c)}/2 または {-b+-√(b^2-4c)}/2 が得られます。
ここでまた α+β=-b から α={-b+√(b^2-4c)}/2 なら β={-b+√(b^2-4c)}/2,
α={-b+√(b^2-4c)}/2 なら β={-b+√(b^2-4c)}/2
以上まとめて解の公式が x={-b±√(b^2-4c)}/2 と求まりました。
この方法は「対称式の基本定理」と呼ばれる定理をもとにしています。 ラグランジュはこの考えによって、4次までの代数方程式の解法を統一的に整理しました。 ガロアはこの点を更に深く洞察して、解の置換と代数方程式の(代数的)解法との間の完全な関係を見出しました。 これは現在ガロア理論と呼ばれており、代数の基礎理論の1つになっています。 (但し現在のガロア理論の位置づけは、方程式の解法の理論というわけではありませんので念のため)。
等比数列の和の公式と因数分解
1+x+x^2+x^3+...+x^n を「初項 1 公比 x の等比数列の和」であると考えれば
1+x+x^2+x^3+...+x^n={1-x^(n+1)}/{1-x}={x^(n+1)-1}/{x-1} がわかります。
一方この式の両辺に x-1 をかけて、整理して
x^(n+1)-1=(x^n+...+x^3+x^2+x+1)(x-1) と書いてみれば因数分解の式と考えることができます。
この式の右辺を展開して左辺が得られることは容易に見て取れると思います。
これは良く知られている x^2-1=(x+1)(x-1) という因数分解の公式の拡張になっています。
このように等比数列の和の公式と因数分解とを関連付けておくと、等比数列の和の公式も覚えやすいのではないでしょうか。
1/(1-x) の級数展開
上記等比数列の和の公式から、|x|<1 であれば、lim[n→∞](1+x+x^2+x^3+...+x^n)=lim[n→∞]{1-x^(n+1)}/{1-x}=1/(1-x)
がわかります。
よって |x|<1 のとき 1/(1-x)=1+x+x^2+x^3+x^4+... となって 1/(1-x) の級数展開が得られます。
なお、|x|<1 なら |-x|<1 ですから、x に -x を代入すれば、|x|<1 のとき 1/(1+x)=1-x+x^2-x^3+x^4+... となります。
log(1+x) の級数展開
上記で得られた |x|<1 のとき 1/(1+x)=1-x+x^2-x^3+x^4+... の両辺を積分すれば、
左辺=log(1+x)
右辺=x-(1/2)x^2+(1/3)x^3-(1/4)x^4+(1/5)x^5-...
よって |x|<1 のとき log(1+x)=x-(1/2)x^2+(1/3)x^3-(1/4)x^4+(1/5)x^5-... という log(1+x) の級数展開が得られました。
ちょっと待って下さい。今の話、左辺は問題ありませんが、右辺は問題です。「加えてから積分しても、積分してから加えても結果は同じ」というのは、 有限和についての話です。無限和の場合、無条件に正しいわけではありません。しかし上記のような場合には問題ないことが証明できます。ご安心を。 なお実は上記の等式は |x|<1 のときみならず x=1 の場合も正しく(下の注を参照)、従って log2=1-1/2+1/3-1/4+1/5-... となります。
注:このことは、項の極限が 0 であるような交代級数が収束することと、アーベルの連続性定理から分ります。 ⇒アーベルの連続性定理
次は確率の話をします。