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負の数と虚数の話

虚数は怪しい数か?

2乗して (-1) になる数として虚数単位が定義されますが、そんな数を考えて大丈夫なのか?
これは、虚数のことを初めて習う人が抱く素朴な疑問でしょう。

”虚数”という名前も怪しげですし、英語でも "an imaginary number" つまり「想像上の数」となっています。
しかし心配は要りません。決して虚数は怪しい数ではないのです。

なぜそういえるのでしょうか?
何か重要な発見があって虚数の”存在”が確かめられたからでしょうか?
そうではありません。
そもそも数は抽象概念であり、実在ではありません。
つまり、例えば「銀河系の中心部に巨大ブラックホールがあるか否か」といったような意味での、存在を確かめる対象ではないのです。
抽象概念なのだから、人が思い浮かべることができれば、どんなものでも持ち込むことができます。
その概念の背景に何らかの実在がある必要はありません。
問題は持ち込んだ概念が、矛盾を起こすか否かです。

矛盾を起こす概念を持ち込むと、論理的にはすべての主張が正しくなってしまい、その論理体系は実質的に無意味になりますから、 矛盾する概念を持ち込むのは困りますが、矛盾さえしなければどんな概念でも持ち込めます。 そして虚数を持ち込んでも矛盾は起きない(下の注意も参照)のです。

もちろん矛盾しないからといって役に立たない概念を持ち込んでも仕方ありませんが、 虚数を持ち込んで得られる「複素数」は物凄く有用です。というより、複素数なしに現在の数学は語れないといえるでしょう。 また応用上も、これがなかったら物理学者や技術者(特に電気関係の人とか)はとても困ると思います。

注意:もう少し正確に言えば、実数を扱う数学が矛盾を起こさなければ、複素数を扱う数学も矛盾を起こさないことが示せるのです。
つまり、もし仮に虚数を持ち込むことで矛盾が起きたなら、そもそもそれを持ち込む以前の実数の段階で矛盾しているはずなのです。

少し詳しい資料を用意しました⇒虚数を考えても大丈夫か(pdfファイル)

なぜ「(-1)×(-1)=1」なのか?

前置きの説明

結論からいえば、「(-1)×(-1)=1」であることの絶対的な理由はありません。 上記「虚数は怪しい数か?」で述べたように、数は抽象概念であり、それが具体的なものに裏打ちされる必要がないのと同様、 掛け算もやはり抽象概念であって、それが具体的なものに裏打ちされている必要はありません。 しかしだからといって、何でもかんでも考えれば良いといいうわけでもありません。 その概念に矛盾がないことは当然ですが、単に矛盾がないだけでは有用な概念になりません。 それなりの背景や根拠もしくは自然さが必要です。

「(-1)×(-1)=1」についても自然さ(根拠)があります。 (ただしそれは絶対的なものではなく、また、絶対的な根拠はあり得ないという点には注意して下さい。) 以下にその説明をします。初めのものは直感的、2番めのものは一応論理的といえるでしょう。

説明その1

(-1)×1=-1, (-1)×2=-2, (-1)×3=-3, (-1)×4=-4, .... は納得できるでしょう。
で、この数列を観察すると、右に1つ行くと1減少しています。言い換えれば左に1つ行くと1増加します。
このことを念頭に置いて、この数列を左に拡張してみますと、
.... (-1)×(-2)=2, (-1)×(-1)=1, (-1)×0=0, (-1)×1=-1, (-1)×2=-2, (-1)×3=-3, (-1)×4=-4, ....
これは自然な拡張といえるでしょう。ですから「(-1)×(-1)=1」とするのが自然です。

説明その2

負の数を含んだ計算であっても、足し算や掛け算の結合法則、分配法則等の諸々の計算法則が満たされるとするのが自然でしょう。 そこで、そのように仮定すれば
0=0×0=((-1)+1)×0=(-1)×0+1×0=(-1)×0+0=(-1)×0=(-1)×((-1)+1)=(-1)×(-1)+(-1)×1=(-1)×(-1)+(-1)
よって 0=(-1)×(-1)+(-1) です。
従って 1=0+1=((-1)×(-1)+(-1))+1=(-1)×(-1)+((-1)+1)=(-1)×(-1)+0=(-1)×(-1)
これで上記の仮定下で「(-1)×(-1)=1」が示せました。

「(-1)×(-1)=-1」とか「(-1)×(-1)=0」とかいった定義をしてはいけないというのではありません。 しかしこのような定義をすると今のことからわかるように、足し算や掛け算の法則を(一部あるいは全部)あきらめなくてはならなくなるわけです。 もちろん「(-1)×(-1)=-1」という定義がそのような犠牲を払っても余りある効能を秘めているとでもいうのなら、それもありですが、 少なくとも現状(恐らく将来も)そのようなことはありません。またもし仮に「(-1)×(-1)=-1」という定義が採用されることがあっても、 それは今の掛け算の体系とは別個の体系を作るというだけの話であり、今の掛け算が見直されるとか、今の掛け算は正しくないといった話にはなりません。

注意1:ここでの話(虚数は怪しい数か?も含む)をきちんと納得してもらうためには、 「定義」とか「公理」とか「論理」とかいったことをしっかりと説明しなくてはなりません。 しかしそれを短い文章できちんと説明することは不可能ですので、上記の説明はすべて「こんな感じです」といった類のものであるとご理解下さい。

注意2:上記で「結合法則、分配法則等の諸々の計算法則が満たされる」といったあいまいな表現を使いましたが、 これを厳密にやると実質的に「環」と呼ばれる概念の定義をすることになります。 しかしそれをやると長くなりますし、そもそも「定義」というものをきちんと説明していないのに厳密な定義をしてみてもしかたがないという理由で割愛しました。

少し詳しい資料を用意しました⇒虚数を考えても大丈夫か(pdfファイル)
この資料の「2.負の数の掛け算について」をご覧ください。

次は高校の数学に関連した話をします。


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