※状況を勘違いしてしまった場合その2
モンティ・ホール問題
司会者が3つの箱 A,B,C を用意しました。一つの箱にのみ当たり券が入っており、それがどの箱か司会者は知っています。司会者が(どの箱に当たり券が入っているか知らない)ゲストに箱を1つ選ばせたところ、そのゲストは A の箱を選びました。司会者は C の箱には当たり券が入っていないのを知っていたので、ゲストに C の箱を開けて見せ、「よろしければ B の箱に交換されてもいいですよ。」といいました。ゲストは交換するべきでしょうか。但し念のため前提として、B,C の箱の双方が空の場合に司会者が C の箱を開けて見せる確率は 1/2 であるとします。
この問題に関しては、交換しても特に有利にはならないという間違いが非常に多いのですが、正しくは交換すべきとなります。
なぜ交換すべきかをまず直感的な形で説明しましょう。わかりやすくするために箱が1万個あってその中の一つのみに当たり券が入っているとします。
あなたがその中から適当に1つの箱を選ぶとします。ほぼ間違いなくそれは当たってないでしょう。つまり当たりの箱は残りの 9999 個の中の1つとみてほぼ間違いありません。
司会者は残りの 9999 個の箱のうち 9998 個の「当たりではない箱」を開けます。そして「あなたが初めに選んだ箱と、今私が残した箱を交換してもいいですよ」といいます。
さてあなたは箱を交換すべきでしょうか。もちろん交換すべきです。初めにあなたが偶然当たりの箱を引かない限り、当たり券は司会者の残した箱の方に入っているのですから。
そしてあなたが初めに当たりの箱を引く確率は 1/10000 なのですから。つまりあなたが初めに選んだ箱が当たりである確率は 1/10000 で、司会者が残した箱が当たりである確率は 9999/10000 になっているわけです。
初めにすべての箱が閉じている状態では、どの箱についてもそれが当たりである確率は 1/10000 でした。しかし今や司会者が残した方の箱についてはその当たりの確率は初めのそれの 9999 倍になっています。
なぜそうなったのかといえば、司会者が残したその箱は、いわば選らばれた「エリートの箱」だからです。
なぜ確率が変化したか?
それは情報が変化したからです。そもそも今述べた確率はあなたにとっての確率であり、中身を知っている司会者にとってはその中の特定の1個の箱については当たりの確率が 1 であり、他の 9999 個の箱については 0 です。
つまり情報によってこの手の確率は変化するのです。
ここでいう確率とは何でしょうか。以上の状況からするとこの場合には「当て得る可能性」とでもいうべきもののように思われます。
一般的にいって確率とは何か?
哲学的にはかなり厄介な問題だ思います。その厄介さがモンティ・ホール問題を誤る原因の一つになっているという点は間違いないでしょう。
しかしこれについてはこれ以上立ち入りません。なぜなら哲学は難しすぎて私には無理だからです。
モンティ・ホール問題を誤る原因について、実はもっと単純な理由があるのです。
モンティ・ホール問題では司会者が箱の中身を知っているので、確実に空の方の箱を開けますが、仮定を変えて中身を知らない者が勝手に残りの2つの箱のうちの一方を開けたところそれが空だったとしましょう。さてゲストは箱を変えた方がいいでしょうか。
この場合は変えても特に有利ではないというのが正解になります。
ゲストのおかれている状況は酷似しています。かたや意図的、かたや偶然ですが、結果的には同じ場面のように思われます。
この両者を同じだと考えることによってパラドックスが生じます。かたや変えた方がいいといい、かたや変えても同じだといい、それがどちらも正しいというわけです。
実際にはこの両者は似て非なる状態なのです。
再び直感的に説明しましょう。
先と同じように、箱は1万個あるとします。あなたは1つの箱を選びました。中身を知らない人が来て残りの箱のうち 9998 個を開けましたがすべて空でした。あなたは初めに選んだ箱と残りの箱とを交換すべきでしょうか。
先と同じようにあなたが初めから当たりを選ぶ可能性はほとんどありません。あなたの選んだ箱はたいていはずれです。
しかしながらその場合、中身を知らない者が箱を 9998 個開けて、それがすべて空であることもまためったにありません。
ということは勝手に箱を開けてそれがすべて空だったのは、実はあなたが初めから当たりを引いていいたからなのではないでしょうか。
このように考えるとモンティ・ホールの場合との違いが直感的に納得できるでしょう。
しかしながら確率の問題ではその直感がしばしば誤りの元になります。地道に確率空間を構成して、これらを解決しましょう。
まずはモンティ・ホール問題です。
「箱 A,B,C に当たり券が入っている」をそれぞれ a,b,c で、「司会者が B,C の箱を開ける」をそれぞれ b!,c! で、さらに and 条件は記号を並べて、例えば「箱 A に当たり券が入っていて司会者が B の箱を開ける」を ab! で表すことにします。このあたりの表示方法は3囚人問題のときと同様です。
標本空間は Ω={ab!,ac!,bc!,cb!} でいいでしょう。
確率測度を決めましょう。当たりである確率はどの箱も 1/3 で、箱 A が当たりの場合に司会者が B,C どちらの箱を開けるかは五分五分ですから。
P({ab!})=(1/3)*(1/2)=1/6 同様に P({ac!})=1/6 。また P({bc!})=(1/3)*1=1/3 同様に P({cb!})=1/3 でいいでしょう。
以上形式的にはまったく3囚人問題と同じになりました。欲しいのは司会者が C を開けた場合の A,B それぞれの箱の当たりの確率です。
司会者が C を開けるという事象は {ac!,bc!} であり、 A,B が当たりという事象はそれぞれ {ab!,ac!},{bc!} です。
ですから司会者が C を開けた場合の A が当たりである確率は P({ac!,bc!}∩{ab!,ac!})/P({ac!,bc!})=P({ac!})/P({ac!,bc!})=(1/6)/[(1/6)+(1/3)]=1/3 であり、このときの B が当たりである確率は P({ac!,bc!}∩{bc!})/P({ac!,bc!})=P({bc!})/P({ac!,bc!})=(1/3)/[(1/6)+(1/3)]=2/3 となって交換した方が有利であることが確かめられました。
続いて中身を知らない人が箱を開ける問題について考えます。今と同じ記号を使います。但し例えば b! は「司会者が B を開ける」ではなく、「中身を知らない人が B を開ける」と読み換えます。
さて今度は開ける人が中身を知らないのですから、当たりの箱を開けてしまうこともあり得ます。そのように考えると標本空間は Ω={ab!,ac!,bb!,bc!,cb!,cc!} がいいでしょう。
確率測度は P({ab!})=(1/3)*(1/2)=1/6。同様にして、P({ac!})=P({bc!})=P({bb!})=P({cb!})=P({cc!})=1/6 となるべきでしょう。
中身を知らない人が C を開けるという事象は {ac!,bc!} であり、 A,B が当たりという事象はそれぞれ {ab!,ac!},{bb!,bc!} です。
ですから中身を知らない人が C を開けた場合の A が当たりである確率は P({ac!,bc!}∩{ab!,ac!})/P({ac!,bc!})=P({ac!})/P({ac!,bc!})=(1/6)/[(1/6)+(1/6)]=1/2 であり、このときの B が当たりである確率は P({ac!,bc!}∩{bb!,bc!})/P({ac!,bc!})=P({bc!})/P({ac!,bc!})=(1/6)/[(1/6)+(1/6)]=1/2 となって、交換しても特に有利でないことがわかりました。
3囚人問題同様、この両者に関しても最終的に考えるべき標本空間は、どちらも {ac!,bc!} です(C を開け C は空だった)。しかし初めからそのようにとったのでは、確率測度の見積もりがうまくいきません。さらに、この両者が同等であるという誤解の元にもなります。
上記ではそれを含むもっと広い標本空間を設定しました。そのことで自然に確率測度が計算でき、両者の違いも明確になったのです。
次に状況の解釈として妥当なものが複数ある。というタイプの話に移ります。