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確率の話

確率のパラドックス

確率論のパラドックスをいくつか紹介します。

もちろん確率論に限らず、真の意味でのパラドックスなどというものがあるはずはありません。かならずどこかに勘違いがあります。

状況を勘違いしてしまった場合その1

3囚人問題

A,B,C 3人の囚人がいて、3人共に処刑されるはずであったが、1人だけ恩赦で処刑をまぬかれることになった。但しそれが A,B,C の誰であるかは知らされなかったので、A は看守に「B,C の一方は処刑されるのだから、どちらが処刑されるかを教えて欲しい」とたのんだところ、看守は「B が処刑される」と答えた。これを聞いた A は「自分または C が恩赦になるから、これで自分の処刑される確率は 2/3 から 1/2 に減少した」と喜んだ。 A の考えは正しいか。

もし A の考えが正しいのであればこれは「パラドックス」です。なぜならB,C の一方は必ず処刑されるのですから、看守が答えてくれさえすれば A の処刑される確率は必ず減少することになります。そうなると看守が答えた瞬間に恩赦の結論に確率的な変化が生じることになりますが、それはいくらなんでもおかしいでしょう。

実際には A が勘違いしているのです。 A は命がかかっていますから、たとえうそでも助かる可能性を高めたいと思っているのでいたし方ありませんが、客観的な立場にいる我々は慎重に考えましょう。

コルモゴロフの公理系に沿う形で、確率空間を設定します。

まず標本空間 Ω を決めます。いささか天下りですが以下のようにします。

「A,B,C それぞれが恩赦になる」をそれぞれ記号的に a,b,c で表します。また「看守が B が処刑されると答える」を記号的に b!「看守が C が処刑されると答える」を記号的に c! で表します。

そしていわゆる and 条件は二つの記号を並べて表示することにします。例えば「A が恩赦になり、看守が B が処刑されると答える」は ab! で表します。

以上の記号の準備の下で Ω={ab!,ac!,bc!,cb!} とします。

確率測度を決めましょう。A,B,C それぞれが恩赦になる確率は同じと考えられます。またA が恩赦になるとき看守が B が処刑されると答えるか C が処刑されると答えるかは五分五分と考えられます。

また看守は、B が恩赦なら必ず「C が処刑される」と答え、C が恩赦なら必ず「B が処刑される」と答えます。

ですから P({ab!})=(1/3)*(1/2)=1/6 同様に P({ac!})=1/6 。また P({bc!})=(1/3)*1=1/3 同様に P({cb!})=1/3 でいいでしょう。

P({ab!})+ P({ac!})+ P({bc!})+P({cb!})=(1/6)+(1/6)+(1/3)+(1/3)=1 となっていることに注意してください。

事象について考えましょう。コルモゴロフ流では事象は Ω の部分集合です。

A,B,C それぞれが恩赦になるという事象をそれぞれ A,B,C で表すことにします。また看守が「B が処刑される」と答える事象を B! で、C が処刑される」と答える事象を C! で表すことにします。これらがうまく Ω の部分集合として表現されるでしょうか?

これについては A={ab!,ac!},B={bc!},C={cb!},B!={ab!,cb!},C!={ac!,bc!} で一応うまく表現されていると考えていいでしょう。

以上で確率空間の設定が整いましたから、3囚人問題を解決しましょう。

看守は「B が処刑される」と答えたので、実際に起きたのは事象 B! です。このとき A が恩赦になる確率を求めればいいのです。

それは事象 B! の中で事象 A の起こる割合ですから P(A∩B!)/P(B!) となります。

ここで P(A∩B!)=P({ab!})=1/6, P(B!)=P({ab!,cb!})=(1/6)+(1/3)=1/2 なので P(A∩B!)/P(B!)=(1/6)/(1/2)=1/3 となって、看守から答えを聞いたところで元の木阿弥、A が恩赦される確率は 1/3 のまま変わりません。つまり A が処刑される確率は 2/3 から少しも減りはしないのです。

一方で皮肉にも、この場合 A が処刑されれば C は恩赦されるのですから、C が恩赦されるされる確率は、初めの 1/3 から 2/3 に増加しています。

さて以上の立場から考えると、囚人 A は標本空間として {ab!,cb!} を設定し、事象 {ab!}(A が恩赦)も事象 {cb!}(C が恩赦)も等確率であると錯覚したのだといえます。

実際看守は「B が処刑される」と答えていますから、標本空間として {ab!,cb!} を設定することは問題ありません。というより実際に起こった事態からすれば、むしろ標本空間としては {ab!,cb!} の方がふさわしいでしょう。しかしその際正しく確率測度として P({ab!})=1/3, P({cb!})=2/3 を与えられるか否かが問題です。

一方上記のように標本空間として {ab!,ac!,bc!,cb!} を選んだ場合は、その中に実際には起こっていない状況も含まれていますが、確率測度については自然に決めることができ、さらに問題も解決されます。

その問題を解くに当たってはもちろん、それを設定するにあたっても、それがやりやすいであろう確率空間を選ぶことが大切です。

さて確率論には条件付確率という概念があります。これは事象 X が起こったときに事象 Y が起こる確率を対象にするもので、それを表す記号としては P(Y|X) がよく使われ、便利です。これはその意味からして P(Y|X)=P(X∩Y)/P(X) となります。もちろん純粋数学的にはこれによって条件付確率を定義するわけです。

上記で求めたのは、看守が「B が処刑される」と答えたという条件下で A が恩赦になる確率であり、P(A|B!)=P(A∩B!)/P(B!) ということになります。

ここで都合上少し変形をします。まず B!=(A∩B!)∪(C∩B!),(A∩B!)∩(C∩B!)=φ なので P(B!)=P(A∩B!)+P(C∩B!) です(これは杓子定規に書きましたが、B!, A∩B!, C∩B! がそれぞれどのようなものか考えれば明らかです )。よってP(A|B!)=P(A∩B!)/[P(A∩B!)+P(C∩B!)] です。

ところで条件付確率の定義より P(X∩Y)=P(Y|X)*P(X) ですから P(A∩B!)=P(B!|A)*P(A), P(C∩B!)=P(B!|C)*P(C) となるので、これを先の等式に代入するとP(A|B!)=[P(B!|A)*P(A)]/[P(B!|A)*P(A)+P(B!|C)*P(C)] となりますが、この形を「ベイズの定理」といいます。左辺では | の右側にある b! が右辺ではすべて左側に配置されている点がミソです。

なお P(A∩B!)=P(A|B!)*P(B!), P(C∩B!)=P(C|B!)*P(B!) ですが、これを代入した場合は P(A|B!)=[P(A|B!)*P(B!)]/[P(A|B!)*P(B!)+P(C|B!)*P(B!)]=P(A|B!)/[P(A|B!)+P(C|B!)]となり、P(A|B!)+P(C|B!)=1 という、その意味を考えれば当然の式が出るだけなので、あまり意味がありません。

続いてモンティ・ホール問題についてお話します。


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